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真空採血管を用いた採血業務に関する安全管理指針(Ver 2.05)


 平成15年10月に行われた、第50回日本臨床検査医学会総会で藤田保健衛生大学短期大学衛生技術科勝田逸郎氏が真空採血管を用いた従来の採血手技では採血管から血液が逆流し、被採血者の感染リスクが高まるとの報告がありました。この報告を受けて厚生労働省は同年11月17日に「真空管採血の使用上の注意等の自主点検等について」(医食安発117001号)を厚生労働省通知として各都道府県を経由して通知しました。この通知では真空採血管を用いた従来の採血手技を改善して、採血管からの血液の逆流による被採血者の感染リスクを低下させることと、血液で汚染したホルダーを介した交差感染を防止することが目的とされています。しかし、医療現場ではこの通知には従来の採血手技と異なる内容が含まれているため、医療機関によっては少なからず混乱が起こりました。そのため、現場の意向を反映し、なおかつ被採血者および医療従事者の安全確保を優先課題とした、標準化された採血手技を提示して欲しいという要望が起こりました。そこで院内感染に関連する学会をはじめとする関連団体と採血業務を実際に行っている関連団体と調整した結果、以下のような「真空採血管を用いた採血業務に関する安全管理指針」を作成いたしました。本指針は従来の採血業務に新たな労働負荷がかかることになりますが、被採血者と採血業務に携わる医療従事者の安全確保を第一として作成されました。各医療機関では本指針を参考として、より安全な採血業務を遂行して頂けますようお願いします。

日本環境感染学会
日本感染症学会
国立大学病院検査部会議
日本臨床衛生検査技師会
国立大学病院感染対策協議会

I 真空採血管を用いた採血業務の感染リスクの要因分析と対策
 真空採血管(以下採血管)を用いた採血業務に伴う感染リスクには大きく分けて、採血管からの逆流による感染リスクとホルダーの血液汚染による感染リスクおよび針刺しによる感染リスクなどがある。採血管からの逆流には、逆流圧の発生に加えて穿刺針と採血管内の血液面の位置関係の2つが関与している。

1. 真空採血管からの逆流

1)逆流圧の発生
真空採血管は、予め採血管内を減圧しておき血液を採取する医療用具であるが、採血管に血液が流入している状態で、駆血帯を緩める等の行為を行うと、採血管内圧が血管内圧よりも高くなり、逆流圧が発生することがある。逆流圧の発生には、駆血帯を緩めるタイミングの他に、採血管の温度変化や採血管の圧迫等が原因となる。

2)逆流が起きる場合の穿刺針と採血管の血液面の位置関係
逆流圧が生じた場合でも、採血管内の穿刺針が採血した血液に接触してなければ、採血した血液の逆流は起きない。このために、NCCLSでは被採血者のアームダウン(腕を下げる)手法が標準化されている。
(厳密な意味では、採血した血液が発泡した場合には泡の膜を引き込む可能性があるため逆流がゼロになるわけではない)。

3)逆流した場合、以下の物質が体内に流入するリスクがある

  1. 真空採血管内に充填されている薬剤(プレーン管以外の場合)
  2. 真空採血管内の細菌等夾雑物(滅菌されていない場合)
  3. 採血管外壁(ゴムキャップ部分)や穿刺針のゴムチップに付着した常在菌
  4. 前被採血者の血液:ホルダーが患者ごとに交換されていない場合、前の被採血者の血液で汚染されたホルダーに新しい穿刺針が触れた場合(採血管を抜いた後、採血管側の採血針を覆うゴムチップは穴があいているため、その穴から血液が遺漏することがある。また、ゴムチップ外壁に血液が付着することがあり、この血液が穿刺針を廃棄する際にホルダーの針穴に移行し、新しい穿刺針をホルダーに装着時に穿刺針を汚染することがある。)
⇒逆流防止策
  1. 逆流圧発生を防ぐ→採血中に駆血帯を緩める等の行為をしない
  2. 逆流を不能とする→採血管内の穿刺針と採血した血液の接触を防ぐ
  3. 汚染源をなくす
    ・採血管内に充填された薬剤→採血管の無菌化
    ・真空採血管内の夾雑物→採血管の滅菌化
    ・採血管外壁(ゴムキャップ部分)や穿刺針のゴムチップに付着した常在菌
     →使用前のアルコール消毒、またはアルミシール化する
    ・ホルダーに付着した前被採血者の血液→ホルダーの患者ごとの交換
2. ホルダーの汚染を介した感染のリスク
 採血管をホルダーに押し込むことにより、穿刺針を覆うゴムチップに穴があき、そこから血液が遺漏することによりホルダーが血液で汚染される。患者毎にホルダーを交換することで、患者間の交差感染やクロスコンタミネーションは防止できるが、ホルダー内に付着した血液は、採血管の外壁を汚染することとなり、そのまま採血室を出ていくと、第三者を感染症のリスクに晒すおそれがある。また、採血管を操作する採血者の手袋に血液が付着すると、その後の採血操作における感染症のリスクを上げる。このリスクは採血時の静脈圧が高くなるほど大きくなり、穿刺針を覆うゴムチップが完全に血液を封じ込めることができない限り完全には払拭できない。

⇒ホルダー汚染対策
ホルダーが血液で汚染された場合には、採血管への血液付着が無いか確認する。また、採血管が血液で汚染された場合には、アルコールにて消毒する等の配慮を行うとともに、手袋への血液付着についても別途配慮し、手洗い、アルコール消毒等の措置を講ずる

3. 針刺しのリスク
 真空採血管での採血では通常の注射器での採血より、針を誤刺することは少ないが、被採血者から抜針した後、廃棄するまでの作業中に採血針または穿刺針で誤刺することがある。針の着脱を慎重に行う。また、注射器で採血した後、真空採血管のゴム栓を穿刺し、分注する際も誤刺し易いので、このような使用法は避けるべきである。針とゴム栓をはずして分注する。

II 真空採血管を用いた採血業務の安全指針

1. 最終ゴール
(1)真空採血管は全て滅菌とする。
(2)真空採血管のゴムキャップに滅菌シールを貼るなど、穿刺部の滅菌化をはかる。
(3)ホルダーは汚染がなくても患者ごとに取りかえる。
(4)ホルダーは汚染に関係なく、洗浄・消毒(次亜塩素酸ナトリウム)後リサイクルする。
(5)血液もれの少ないゴム被覆型穿刺針を使用する。
(6)誤刺防止装置付採血針とする。
(7)採血手順は以下の場合と同じとする。

2. 当面の指針
真空採血管を使用した採血手順を以下のように行う。
採血に際してはゴム手袋を着用する。
事前に採血管の穿刺部を消毒する。
(1)採血用ホルダーに採血針を取り付ける。
(2)駆血帯を装着し、採血部位を確認して消毒を行う。
(3)消毒液の乾燥後、採血針を血管に刺入し、ホルダーを固定する。
(4)穿刺部を消毒した後、室内温度になった採血管をホルダー内へ押し込み、血液の流入を確認する。
(5)必要量の血液を採取した後に、採血管をホルダーから抜く。
(6)次の採血管(ゴムキャップ部の消毒済)に血液を採取する。
(7)採血中は、採血管内の穿刺針が採血した血液に接触しないようにする。
(8)(最後の)採血管をホルダーから抜く。
(9)採血管を抜いた後に駆血帯をはずす。
(10)消毒綿または乾綿を穿刺部位に軽くあてた状態で針を抜く。
(11)消毒綿または乾綿を圧迫して止血する。
(12)患者毎にホルダーを交換することを原則とする。リサイクルする場合は洗浄・消毒(次亜塩素酸ナトリウム)後に使用する。
(13)ホルダーが血液で汚染された場合、採血ホルダーへの血液汚染及び手袋への血液の付着に配慮し、採血ホルダーや手袋の交換を行い、必要に応じて手洗いやアルコール消毒を行う。

(注意事項)

  1. 仰臥位での採血以外は可能な限り被採血者のアームダウンを維持して、穿刺針が採血した血液に接触しないように配慮する。また、仰臥位での採血には翼状針を用いた採血法も考慮する。
  2. シリンジ採血による分注では針刺し事故のリスクが高まることを考慮する。
  3. 用語の定義
    用語 定義
    採血針 採血の際に皮膚を通して静脈を穿刺する針
    穿刺針 ホルダー内で採血管を穿刺する針
    ゴムチップ 穿刺針の外壁を被覆し、採血針からの血液の遺漏を防ぐゴムカバー
    ゴムキャップ 採血管を陰圧に封入するためのゴム栓

    真空採血管を用いた採血業務に関する安全管理指針(Ver 2.05)(20K)

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