刊行にあたって
近年、多剤耐性緑膿菌(multiple drug-resistant: Pseudomonas aeruginosa: MDRP)や多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(multiple drug-resistant Acinetobacter baumannii, MDR-Ab)に代表される多剤耐性グラム陰性菌(multi drug-resistant Gram negative bacilli: MDR-GNB)の増加が報告され、実際に複数の施設でアウトブレイクや死亡例も報告されるようになった影響で、国内の医療界から多剤耐性グラム陰性菌感染症制圧のための指針の早期提案を望む声が大きくなってきていた。
しかしながら、多剤耐性グラム陰性菌における感染制御の問題は、多種の菌種が複雑に関与しているため、原因が複雑で、未だ科学的・疫学的研究も乏しく、さらにはアウトブレイクを制圧した報告も非常に限られている。しかし一方で、これまでのグラム陽性菌に対する感染制御策を進めたことで、同時にグラム陰性菌による医療関連感染症の減少を経験した施設も少なくない。このようなエビデンス不足の状況ではあるものの、「とりあえずどうしたらよいのか、方向性だけでも出して欲しい」という現場からの切実な要望に応える形で、他の菌におけるエビデンスや推奨ではあるが、「既知のエビデンスを参考にして、多剤耐性グラム陰性菌対策としても同様に推進すべき」と考えられる“学会としての方針説明(ポジションペーパーの意)”を、可能な限り客観的にまとめる必要性があった。このため、当学会を代表する専門家による多剤耐性菌感染制御委員会を組織し、MDR-Abを中心としながらもMDR-GNB全般を制御するための共通のコンセンサスをまとめた。このポジションペーパーが、各施設における多剤耐性グラム陰性菌の感染制御推進の一助となれば幸甚である。
多剤耐性菌感染制御委員会
PDFをご覧になる際は、Adobe® Reader™をご利用ください。
ツイート